今川焼
地団駄を踏んでいても仕方がない。
確証もなく相手を蔑むのは俺のポリシーに反する。
…ということで、その日の下校途中。
俺は噂の店に立ち寄った。
案の定、すでに数体のセーラー服が今川焼を頬張っている。
口の周りに粒あんを付けながらもチラチラと横目で伺う視線の先は、やはり例の息子なのだろう。
遠くから覗き見るのもしゃくだったため、敢えて接近戦を試みた。
欲しくもない今川焼を買うための列に並ぶのも苛立ったが、当の本人を間近で拝みたいという興味が勝った。
「茂さん大丈夫ですかぁ?」
「ええ、大丈夫ですよ。ただのぎっくり腰ですから、すぐに復帰しますよ。」
「そうですかぁ…お大事にして下さい。」
「わざわざありがとうございます。」
思ってもいない気遣いに愛想を振りまく。
しかし紳士的な対応のどれもが…
…いちいち鼻についた。
「…お次の方どうぞ。」
気が付くと最後尾だった俺の真正面で、噂の張本人が微笑みかけている。
「あ、ああ…」
「如何なさいますか?」
「ああ、えっと……じゃあ4つ。」
「かしこまりました。」
爽やかな対応と…
…鮮やかなまでの感服…
…敵対心がバカバカしくなった。
「はい、おまちどうさまでした。」
「…………」
…でも気に入らないものは気に入らないんだよ。