今川焼
教室から出ると、踊り場は人だかりに占拠されていた。
割って入るように揉まれながら階段を降りていくと、ヒソヒソと囃立てる女子達の声が下駄箱の方から聞こえてきた。
「なんか地味じゃない?」
「牛乳瓶みたいな眼鏡掛けてるし」
「リュック背負ってるよ」
「マフラーも配色ダサくない?」
「うわー萎えるわー」
好き勝手言いまくる女子。
どうやら……
……まだ気付いていないようだ……
靴を履き替えるところも終始ガン見されていたが、うざったそうに群衆を視界から排除していた。
ただ者ではないオーラと、先程の勇姿が脳裏に焼き付いていたせいか、生徒達も自然と道を空ける。
そのうち、興味を無くして去っていく者もいて、ゆとりのできた階段を俯きながら此方へと向かってくる。
俺は目の前に立ちはだかり声を掛けた。
「宣伝活動ご苦労様でした、市長」
昨日の会話の続きを切り出すと、チラッと俺の存在に気付く。
「そういうんじゃねえから」
ふてくされた声で言った。
それとは対照的に何故か照れ臭そうな顔をしていたが、そんな面を見て……
……一体何人の奴が、今川焼屋の4代目だと気付いただろうか。