今川焼
予鈴まで間もない廊下を、俺達はゆっくりと歩いた。
通りすがる度に生徒達は義心をチラチラと伺いつつも、やはりまだその正体に気付く様子はない。
「大したもんだな、その眼鏡」
「お前は気付いたよな」
「確かに……」
ゲーセンで義心を見つけた時、俺はそれを義心ではないと疑わなかった。
それどころか確信に満ちて近付いていった気がする……
「げっ、なんかヤバそうな雰囲気」
考え歩いていた俺は、義心の声で目の前に視点を移し替える。
「あれって俺の方に向かってるよな?」
「間違いなくそうだろ」
多くの者がヤンキーを蹴散らしたヒーローだと賛辞を投げようとも。
少数派の大人達は、それをただの乱闘騒ぎとしか受け止めない。
「早く、こっちだ義心!!」
駆け寄る教師達を撒くために、義心の腕を掴み走った……
「おっ、おい!」
「バレたら停学だぞ?」
「俺は悪いことしてねえのに」
「暴力は立派な犯罪なんです」
「正当防衛にならないの?」
「単位もロクにないくせに、捕まったら留年確定だぞ」
「死んだ」
「いいから走れ!」
義心は俺の説得に応じて、自分の足で走りはじめた。
普段は短絡的に見えていた廊下を、まるで入り組んだ迷路のように駆け抜ける。
「待ちなさい!」と張り上げる体育教師の長谷部の声を道の角で振り切ると、そこからは猛ダッシュで……
……ひたすらに階段を駆け昇った。