今川焼
 
予鈴まで間もない廊下を、俺達はゆっくりと歩いた。

通りすがる度に生徒達は義心をチラチラと伺いつつも、やはりまだその正体に気付く様子はない。


「大したもんだな、その眼鏡」

「お前は気付いたよな」

「確かに……」


ゲーセンで義心を見つけた時、俺はそれを義心ではないと疑わなかった。

それどころか確信に満ちて近付いていった気がする……




「げっ、なんかヤバそうな雰囲気」


考え歩いていた俺は、義心の声で目の前に視点を移し替える。


「あれって俺の方に向かってるよな?」

「間違いなくそうだろ」


多くの者がヤンキーを蹴散らしたヒーローだと賛辞を投げようとも。

少数派の大人達は、それをただの乱闘騒ぎとしか受け止めない。


「早く、こっちだ義心!!」


駆け寄る教師達を撒くために、義心の腕を掴み走った……




「おっ、おい!」

「バレたら停学だぞ?」

「俺は悪いことしてねえのに」

「暴力は立派な犯罪なんです」

「正当防衛にならないの?」

「単位もロクにないくせに、捕まったら留年確定だぞ」

「死んだ」

「いいから走れ!」


義心は俺の説得に応じて、自分の足で走りはじめた。


普段は短絡的に見えていた廊下を、まるで入り組んだ迷路のように駆け抜ける。

「待ちなさい!」と張り上げる体育教師の長谷部の声を道の角で振り切ると、そこからは猛ダッシュで……




……ひたすらに階段を駆け昇った。
 
< 32 / 35 >

この作品をシェア

pagetop