今川焼
「長谷部やべえ…はえーよアイツ…」
「はぁ…さすがマラソンモンスター…」
「はぁ…はぁ…これ逃げ切れるんか?」
「わかんねえよ……」
迷い込んだのが1年校舎で救われた。
把握していた地理の中から、人目のつかない場所を導き出す。
「屋上まで上がれ!」
「行き止まりじゃねえか!」
「いいから!」
一年から使い回していた上靴が爪先の力を蝕む。
そんな反発すらも押し退けて、逃げ切ることだけを優先した……
……いや物凄く痛いけどね……
……屋上まで辿り着くと、錆びついたドアを静かに開けて一時的に避難する。
「はぁはぁ…長谷部まだ追ってきてた?」
「…後ろ確認するヒマなんてねーよ…」
ここに来たことがバレてさえいなければ、次に向かうポイントは絶好の安息地だと断言できる。
バレてさえいなければ……
「……おいっ」
「ちょっと休憩させて」
「降りてからな」
「はあ?」
「こっから飛び降りるぞ」
自分のテリトリーだと、多少の無茶も平気で言えるものなのだと……
まるで昨日とは立場が逆転した。