今川焼
 
「長谷部やべえ…はえーよアイツ…」

「はぁ…さすがマラソンモンスター…」

「はぁ…はぁ…これ逃げ切れるんか?」

「わかんねえよ……」




迷い込んだのが1年校舎で救われた。

把握していた地理の中から、人目のつかない場所を導き出す。


「屋上まで上がれ!」

「行き止まりじゃねえか!」

「いいから!」


一年から使い回していた上靴が爪先の力を蝕む。

そんな反発すらも押し退けて、逃げ切ることだけを優先した……






……いや物凄く痛いけどね……






……屋上まで辿り着くと、錆びついたドアを静かに開けて一時的に避難する。


「はぁはぁ…長谷部まだ追ってきてた?」

「…後ろ確認するヒマなんてねーよ…」


ここに来たことがバレてさえいなければ、次に向かうポイントは絶好の安息地だと断言できる。

バレてさえいなければ……




「……おいっ」

「ちょっと休憩させて」

「降りてからな」

「はあ?」

「こっから飛び降りるぞ」


自分のテリトリーだと、多少の無茶も平気で言えるものなのだと……




まるで昨日とは立場が逆転した。
 
< 33 / 35 >

この作品をシェア

pagetop