今川焼
やがてチャイムが鳴ると、ざわついた校舎が少しずつ静寂を取り戻した。
渡り廊下をゆっくりと歩く長谷部も、俺達の捜索を諦めたのか背中で息をしている。
「…お前どんな蹴り技かましたんだ?」
「本当はローリングソバットで一撃で仕留めようとしたんだけど、ハゲの座高が低すぎて外しちまった。その拍子に不覚にもよろけちまったもんだから、仕方なく旋円蹴でKOしたよ」
実践経験を積んでる格ゲーオタクなんて見たことねえよ……
「……あーっ、あちぃ」
「一生分は走ったよな…それよりマフラーいい加減とれよ」
「あ、これのせいで暑かったのか」
「…………」
「……どのみちバレるよな?」
「それだけど、俺に名案がある」
この姿を見て誰一人として義心の存在に気が付かなかったということは、それは逆に利用できる。
「その眼鏡、外せ」
「これ外したら何も見えないっての」
「今日一日だけ俺がお前の眼鏡になってやるから、明日コンタクト買ってこいよ」
「……こんなんで大丈夫かよ」
きっとバレるだろう。
しかし、それは古川義心という名前の男が今川焼屋の息子だということに気付くだけで……
……それとヤンキーを伸した眼鏡男を、誰が結びつけるだろうか。
「あとリュックとマフラーも捨てろよ」
「何でだよ」
「女子達が言ってたぞ、ダサいって」
「ホントに?」
人を見た目で判断するのが人間の習性。
「焼却炉で証拠隠滅だな」
「ダサいのか、俺……」
きっと今ある素顔の状態で、この一見ダサそうに映る着こなしをしていたとして。
そうすれば赤と緑の際どいチェックのマフラーも、奇抜な蛍光色の個性派リュックも……
もしかしたら受け入れられていたかもしれない。