桃色ドクター【番外編】
「全て義理ですが」
ため息まじりに答える。
俺は、平野さんの腰に触れた。
ビクっとした平野さんは、俺を試すような言い方で言った。
「奥さんからは本命でしょ」
本命?
もらえるかどうかもわからない。
できれば考えたくない。
婚約している女性からバレンタインをもらえるかわからないなんて。
「ここ、もう痛くない?でも、無理はだめですよ。腰を使うスポーツはしばらく禁止です」
誤解されたままの方がいい。
俺が結婚していると思い込んでいる方が……いい。
そうだ。
俺は一体何を考えているんだ。
無理なのに。
そんな無謀なこと、絶対にできないのに。
婚約破棄をして、平野さんを好きになるなんて……
今までの俺の人生、道を外れたことなどなかった。
このままでいい。
このまま由美子と結婚して、平凡な家庭を築けばいい。
ときめきや情熱を求めて、
今までの平穏を崩してしまうなんて俺らしくない。