蜜愛
――あたしは
真っ暗な海に漕ぎ出した船だ。
彼の胸板も、きっと大きな真実の波がうち寄せてきたら、
太刀打ちできずに
沈没するだろう。
それでも。
そうとわかっていても。
あたしは、ギリギリまでつかまり、
悶えて
足掻いて
存分に船旅を
彼の愛撫を
楽しむフリをして。
彼の喉仏からゆっくり、関節や骨や
いつか焼かれて灰になってしまう日まで
こうして
指と舌と肌で
辿るだろう。
彼の茂みに顔を近づけて、
その慣れない臭いにいちいち吐きそうになりながら。
彼が
霧笛を鳴らし
あたしは呼び寄せられただけ。
ただ、それだけ。