蜜愛
僕は彼女の後ろ姿を追った。
走り去ろうとするのに、砂に足をとられて一向に前に進んでいないようだった。
しまいには、よろけて砂の上につまづいて転んだ。
僕は、彼女の背中を。
抱かずにはいられなかった。
怖がるだろうとか、驚くだろうとか、
一切
考えなかった。
ただ、目の前に
手を触れられる距離に彼女が座り込んで
泣いている。
その事実。
それだけが、
雲もなくなった満天の夜空と
月光に照らされて
僕は抱きしめるしか彼女にふれる方法がなかった。