蜜愛



―――翌朝。

ガタガタ揺れるテントの音に驚いて、

テントの窓から、チラリと空を見ると。

昨日まであんなに天気が良かったのに。

空には、灰色の雲が立ち込めて、

海の家ではためく、ノボリやノレンがバタバタと

字が読めないくらい風に吹かれていた。
時刻は朝8時。

海で目覚めるには、少し遅い朝だ。

もう、テントの周りでは人の声がする。

走り去る車の音。

残念がる子供の声。

疲れてイライラした母親の声。


その中に、セイタの声が紛れていないか、耳をすました。


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