蜜愛

波うち際まで来て、

彼はあたしに

『手のひらをみせてみろ』


と、言った。


あたしは自分で自分の手のひらを見て、
一体なんなの?と言おうとして、

言葉を飲み込んだ。
そして、手のひらを握りしめて隠した。

『はやく。ほら』



――あたしの手のひらには、

昨日夢中で気づかなかったけど、

手をついた時に

岩肌や、樹木の表面でついた

無数の

細かい

傷跡が。


急にヒリヒリと痛み出して………



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