蜜愛
僕は、おじさんの書いた“たまこ”という文字をなぞらえた。

指で、ゆっくり。

何度も。

何度、も。

今思うとぞっとする。

なんであんなことしてたんだろうな。


すると急に、なんだか全てがわかった気がした。



父親は、生まれてからはじめて、母親という異性を取り合う存在で。

僕は母さんを奪われてしまいそうで、どうしてもあの“おじさん”が好きになれなかった。

ーーだけど。


母さんと二人で暮らしてきたから、『父』というものがわからなかった。

父親が何なのかわからなかった。


伸という名のおじさんを、この日初めて“父さん”と声に出して呼んでみた。

この人も、紛れもなく

ーー父だった。


だって、母親を愛していたから。

それは一方的であったかもしれない。
僕に嫌われて、その僕は他の男の子供で


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