蜜愛
断片的にはあるようだが、彼女はそれを全て思い出すことを拒むように、

新しい記憶でいらない記憶を洗い流していく。

真っ白なベッドに横たわり、真っ白な顔で俺の方を見たとき。

一瞬、天使かと思った。


俺はそんなファンタジーなやつでもないけど、

目が覚めてそれからの人生をまた生まれ直した彼女に。

俺は自己紹介をするしか、なかった。

『蜜柑。兄さんだよ、だいすけっていうからね』

『お兄ちゃん、……が、いるのね、私。宜しくお願いします。思い出せなくてごめんなさい、お兄ちゃん』



俺は、蜜柑の目が見えないことをいいことに、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。

< 360 / 421 >

この作品をシェア

pagetop