蜜愛
『昨日、お母さんがきたの。……悔しいし恥ずかしいんだけど、顔が思い出せなくて。お兄ちゃんからみてお母さんはどういう人ですか?』


俺は、蜜柑に泣いていることがばれないように、咳き込むフリをしながら答えた。


『俺と蜜柑の……とっても優しい母さんだよ。赤ちゃんの頃から、とっても大切に育ててくれた。綺麗で、頭が良くて、とても』

『女らしい人?』


ーーそれだけはなんとなく、昨日わかったんです。手に触れたら、爪が長かった。


蜜柑はそう言って手探りでティッシュを探し、俺に差し出しながら笑った。

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