蜜愛
私の視力。

……誰も気づいてなかった。

私は少しずつ『見える』ようになってきていた。


もしかしたら、やはりまだ見えてはいないかもしれないんだけど、

目の前にきちんと景色が広がるような、そんな感覚は一度や二度じゃない。

今日の夕陽だって。

私にはちゃんと見えていた。

いつか見た夕陽が瞼の裏に、きちんと広がっていた。

記憶なのか、本当に見えているものなのか、

境目がよくわからない。


記憶が戻りつつあるとは信じたくない。

これは、視力。

見えているのだから。

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