蜜愛
だから私には。

セイタと名乗った彼の顔が、名前を聞いた瞬間から『見えた』。

セイタ……

パパと同じ名前……

彼の顔が私の頭の中で次第にパパの笑顔に変わってゆく。

いろんな記憶が、千切れ飛んでいたのに、パパのことだけはしっかり覚えていた。


勿論、母さんのことも兄さんのことも、少しずつ蘇ってはいたけど、


私はずっと忘れたフリをしてきた。

だから私はまた母さんが離婚を決めた時、理由なんて聞けなかった。


どうせ、誤魔化す。

私は、知っているのに。

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