カナリア
加奈子は次の日に誠の地元へ向かった。
昨晩の電話は加奈子から切り、現状を確かめる為に誠には何も告げずに。
誠の実家に着くと、誠は仕事の途中抜けて来たのか白衣姿だった。
『ど、どうしたんだ。連絡もしないで来るなんて。』
明らかに動揺した様子の誠の後ろには見覚えのある女性が何とも言い難い笑みを浮かべて立っていた。
一目見てわかる。
その女性は大学で誠に好意を持っていた先輩である事。
そして、その女性が妊娠している事が。
『あなたの顔を見て別れを言いたかったの。』
加奈子は冷静に誠を見つめた後、背を向けて玄関を出た。
『さようなら。』
誠は追ってこなかった。
想像できなかったわけではない。
誠に限って────と、半ば強引に想像をしなかった事は確かだった。
その後、アルバイトをしていた歯科医に就職を決め、町田市に移住したのは言うまでもない経緯だった。