馬上の姫君
 五郎八らが指定されたお出迎えの場所に行って家康の一行を待ち受けていると、宇治田原城主山口光弘配下の侍新末景と市野辺出雲の二人が馬を跳ばしてやって来た。
 後には市野辺村よりかり出された郷民六、七十人が続いている。二人は浅瀬を探して馬を乗り入れ対岸の飯岡に上がろうとしたが、折からの増水で渡ることができない。
「二郎様、われらは対岸に渡って待つことにいたしましよう」
 周辺の通行を仕切る掃部丞らは渡し場の持ち舟を自由に使い渡っていく。対岸の渡しでは、連絡を受けた飯岡の郷士小山政清が渡河用の柴舟二艘を準備していた。
 飯岡の岸に上がると、服部左兵衛貞信が数人の縁者を引き連れて、徳川の一行を待ち受けていた。この男はもと伊賀阿拝郡の呉服明神の神官で最近、宇治田原山田に移り住んだ者である。
しばらくすると大和の十市玄蕃允も手勢をつれて馳せ参じた。待つこと半刻、普賢寺川に沿って四十騎ほどの一団が姿を表した。
「三河殿がおいでになった。粗相があってはならぬぞ」
 遅れて渡河した山口配下の侍たちが集まった人々を制して、警護の態勢を取った。
 到着した一行の中から長谷川秀一と本多忠勝がやって来た。
「郷の口の山口城まで郷導頼み入る。よしなに願いたい」
掃部丞に丁重に依頼した二人が本隊に戻っていくと、服部正成が柘植三之丞清広と又市のところにやって来て、
「今から荒療治を行う。そなたも御主君のために力を貸してくれ」
と言ってきた。

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