馬上の姫君
「早くからいったい何用じゃ…。通すがよい」
乳母は徳松丸を引き取って下がる。
具教は早朝の来客に三瀬谷の茶でも飲ませてやろうと釜に目を移した。湯はすでにシュンシュンと松風の音を奏でている。やがて長野、森がやって来て平伏して挨拶を始めた。
「よう来た。千代はいか……」
具教がそこまで言いかけた時、三人目の来客加留左京が入室、立ったままいきなり抜刀した。
「御免」
左京は叫ぶやいなや、具教に斬りつけた。
同時に、御前の長野、森の両名も立て膝ついて抜き打ちに一刀ずつ加える。
「さては…た…」
具教は立ち上がろうとしたが、そのまま横転して絶命した。
その朝、隣の間に控えていた金児図書頭義正は書院からの物音に殺気を感じて、襖を開けてみて驚いた。
三人の刺客に囲まれた主君が止めを刺されてすでに息絶えている。
「方々、お出会いなされ。殿が、殿が……」
急を聞きつけた小泉勝吉、吉正父子、松永勘左衛門尉、芝山小次郎、大宮多芸丸、大久保清衛門、南部久内教長、今井権左衛門、稲尾雅楽助、莉木秀勝、芳清源六郎、吉田是重、金児義時、同義則らが駆けつける。しかしその時、四郎左衛門の開け放った裏城戸から柘植三郎左衛門、滝川三郎兵衛ら率いる信雄軍二百余人が山里丸に乱入して来て、切り合いになった。危険を察知した乳母は徳松丸と亀松丸を下女に抱かせて脱出を試みる。だが、追って来た織田の雑兵に二人の若君ともども斬殺された。三瀬谷で具教が討たれた時、正室お松の方は、波多の横山にある御台屋敷にいた。
乳母は徳松丸を引き取って下がる。
具教は早朝の来客に三瀬谷の茶でも飲ませてやろうと釜に目を移した。湯はすでにシュンシュンと松風の音を奏でている。やがて長野、森がやって来て平伏して挨拶を始めた。
「よう来た。千代はいか……」
具教がそこまで言いかけた時、三人目の来客加留左京が入室、立ったままいきなり抜刀した。
「御免」
左京は叫ぶやいなや、具教に斬りつけた。
同時に、御前の長野、森の両名も立て膝ついて抜き打ちに一刀ずつ加える。
「さては…た…」
具教は立ち上がろうとしたが、そのまま横転して絶命した。
その朝、隣の間に控えていた金児図書頭義正は書院からの物音に殺気を感じて、襖を開けてみて驚いた。
三人の刺客に囲まれた主君が止めを刺されてすでに息絶えている。
「方々、お出会いなされ。殿が、殿が……」
急を聞きつけた小泉勝吉、吉正父子、松永勘左衛門尉、芝山小次郎、大宮多芸丸、大久保清衛門、南部久内教長、今井権左衛門、稲尾雅楽助、莉木秀勝、芳清源六郎、吉田是重、金児義時、同義則らが駆けつける。しかしその時、四郎左衛門の開け放った裏城戸から柘植三郎左衛門、滝川三郎兵衛ら率いる信雄軍二百余人が山里丸に乱入して来て、切り合いになった。危険を察知した乳母は徳松丸と亀松丸を下女に抱かせて脱出を試みる。だが、追って来た織田の雑兵に二人の若君ともども斬殺された。三瀬谷で具教が討たれた時、正室お松の方は、波多の横山にある御台屋敷にいた。