馬上の姫君
 その後、お松の方は仏間に籠もって、殺された子供らの冥福を祈った。祈りながら、惣助の話から、千代御前もまた死ぬであろうと思った。そう思うと、お松の方の心は悲しみに張り裂けんばかりになった。お松の方は懐のお守り袋から、読み札と取札の歌留多一組を取り出して仏壇の上に静かに置いた。
 その後、我が心を鎮めようと再び祈り続けた。
「姫たちに永遠の命を与えたまえ…。どうか、ともに極楽往生の本懐成就がなり、同じ蓮の台に導かれますように…」
 読経を終え、仏間を下がると、侍女たちに支度を命じた。
 日頃からこのような時のことを、よく言い聞かされていた二人の侍女は、主人の最期に粗相があってはならぬと気を配った。
 お松の方の頬を幾筋かの涙が伝っていく。
 無言のまま白無垢に身を包んだお松の方はふたたび仏間に入ると静かに襖を閉めた。
 本居惣助の知らせを受けた佐々木与志摩が赤桶の城から御台屋敷に帰り着いたのは、夜もかなり更けてからである。
 不吉な予感は、赤桶から御台屋敷に向かう途上、ずっと与志摩の身に取り着いて離れない。案の上、御台屋敷には漏れ来る光もなく、ひっそりと暗く閉ざされていた。しかし、門は開けたままになっている。襖が開いているのを不審に思いながら、面玄関の式台から上がった。暗い座敷内を二、三歩いくと何かに躓いてよろけた。
 台所へ行き、手燭に明かりを灯して屋敷の内を点検すると、先程足に触れたのはお倉の亡骸であった。
もう一人の浜野も仏間の入り口で息絶えている。仏間には布団が敷かれ、お松の方が仰向けに横たわっていた。
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