馬上の姫君
亡骸の上に、白い何かが撒かれたように散っていた。よく見るとそれは万葉百人一首歌留多であった。
「遅かった…」
与志摩は赤桶の城に詰めていたことを後悔した。
「松姫様を守り抜くことこそ、女佐の臣としての我が役目であったはず…。御台様、肝心な時に居合わせずに…申し訳ござりませぬ……与志摩が…姫を……」
与志摩は嗚咽すると松姫の亡骸に手を合わせ、六字名号を繰り返し唱える。
やがて、開け放たれている縁側から、冷たい風が音を立てて部屋の中に吹き込んだ。破れるはずのない戸障子が破れて風に翻っている。風は部屋の中に霙を運んで来た。与志摩は手燭を畳の目に近づけて隅々まで調べてみた。
何人かが土足で踏み込んでいる。侍女たちは刺し違えて死んだのではなかった。
『御台様御自害の後、刺客が二人の侍女を襲ったのだ。…お浜もお倉も死を覚悟していたのに。…何と無慈悲な…』
与志摩はお松御前の遺骸を担ぐと波瀬川を渡り、鳥沖を通って波多の横山に登った。
「遅かった…」
与志摩は赤桶の城に詰めていたことを後悔した。
「松姫様を守り抜くことこそ、女佐の臣としての我が役目であったはず…。御台様、肝心な時に居合わせずに…申し訳ござりませぬ……与志摩が…姫を……」
与志摩は嗚咽すると松姫の亡骸に手を合わせ、六字名号を繰り返し唱える。
やがて、開け放たれている縁側から、冷たい風が音を立てて部屋の中に吹き込んだ。破れるはずのない戸障子が破れて風に翻っている。風は部屋の中に霙を運んで来た。与志摩は手燭を畳の目に近づけて隅々まで調べてみた。
何人かが土足で踏み込んでいる。侍女たちは刺し違えて死んだのではなかった。
『御台様御自害の後、刺客が二人の侍女を襲ったのだ。…お浜もお倉も死を覚悟していたのに。…何と無慈悲な…』
与志摩はお松御前の遺骸を担ぐと波瀬川を渡り、鳥沖を通って波多の横山に登った。