アンナ
若者が集うファッションビルの地下2階に位置するワンフロアーに私は来ていた。

耳をつんざくような音楽が反響し、
肌を焼いた露出の多い店員が鼻にかかった声で客引きをしていた地上階に比べると、
まるで同じ建物のなかとは思えないくらい静かだ。


この階にはゴシック、ロリータ、パンクスといったファッションジャンルの
あまり万人受けはしないけれどコアなファンを持つブランドのテナントが多数入っていて
私は、あらかじめファッション誌から切り取ってきた地図だけを頼りに足を進める。


無意識に膝が震えて、緊張しているのが分かる。

なんせ、こんな場所へ赴くのは17年の生涯で初めてのことなのだ。


すれ違う客は皆、レースやフリルをふんだんにあしらった装飾華美な格好、
あるいは黒一色で、攻撃的な格好をしているのに
私はいたって平凡な格好をしている。

すれ違いざまに向けられる視線が「場違いなんだよ」と言っているように思えた。


真白いシャツの上に長袖の黒いカーディガンを羽織り、それと同色で膝丈のプリーツスカート、黒ストッキング、エナメルのストラップシューズ。
鞄は靴に合わせてエナメルのまあるいミニポシェットを肩から掛けただけのこの格好。


おまけに髪型は何の変哲もない、耳の下での二つ結びだ。
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