アンナ
前知識で、こうした場所へ来るときにはそれなりの格好をしていないと馬鹿にされるということを知っていた。

「店員の態度が冷たくなる」だとか「他の客に鉄バットで殴られる」だとか
どれも根拠のない噂程度にしか過ぎなかったけれど
火のない所に煙は立たない、とも言う。


だからこのフロアに入っているブランドの服なんて一着も持っていないまるで初心者の私は
自室のクローゼットにある手持ちの服の中から
精一杯、モノトーンの服をかき集めてみたのだけれど

先ほどの視線を見た限り、結果は惨敗といったところだろう。


ううん、他人の評価だけじゃない。
実際に自分でもそう思うのだから。




――…ほんと、冴えない格好。




通路の一角にそびえる円柱型の鏡に写った姿をちらりと流し見て、私は肩を落とした。
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