アンナ
色褪せた革財布の中から一万円札と千円札を数枚、会計皿に乗せる。
今日のためにこつこつ貯めてきたお金だ。

貯金箱の中は完全に空にしてきたから、
私は文字どおり帰りの電車賃しか持たないことになる。
それも後15分も経たない内に消えてしまうんだけれど。


無一文になるのに、不思議と不安はなかった。

逆だ。

言いようのない快感が全身を巡って仕方がない。

透明でピンク色の液体が頭のなかに溢れ出て、脳みそが浸かっているような感覚。
たいしてアルコールを飲んだ経験もないのに、
酔っぱらったときの気持ち良さに似てる、なんてことを頭の隅で考えた。


「お待たせ致しました。」

透明なセロハンに金縁の黒サテンリボンを掛け、
「Present for you」と英字の入った蝙蝠のポストカードを添えた包装を手渡され、私は頭を下げた。

「綺麗なラッピング…。ありがとう御座います」
「お客様の恋が成就するようお祈りしています。
ぜひその彼と二人でご来店して下さいね」

茶化すような応援するような店員の言葉にはにかんでもう一度頭を下げると、私は店を後にした。



ああ、そんな日が本当に来たならどんなに嬉しいだろう。
私が贈ったネクタイを締めたあの人と一緒にもう一度このお店に来れたなら――…
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