あなたがいてくれた‐いじめ‐
そのホームレスは、【山本雪夫】さんと言うそうだ。

年は49歳。

「雪夫さん、私は優衣と言います。」

「可愛い名前だね。よく見ると、顔も美人だ。」

雪夫さんは私を可愛いと言った。

ありえない。

「私、可愛くありません。このごわごわの髪だって、体格だって。」

「そうか?可愛いと思うがな。」

雪夫さんは、手を動かし続けている。

「…雪夫さん、失礼な事言いますけど…どうしてホームレスになってしまったんですが。」

雪夫さんは手を止めた。

「殺されたんだ。」

「誰が?」

「両親も、妻も、子供たちも、親戚全部。」

意外な答えだった。

聞いたことがある、『騙された。』とかじゃ無かったからだ。

「どうして…ですか。」

恐る恐る聞いた。

「俺はサラリーマンだったんだが、社長の娘さんに嫌われてね、その娘さんが社長に頼んで、俺の血の繋がっている奴、全員殺しやがった。」

雪夫さんの声は震えている。

「金も全部取られて…。俺を独りにして、孤独を与えたかったのかな…。」

もう、雪夫さんは喋らなかった。


ひどい。

殺すなんて。

理由がそんな簡単な事って…。

「雪夫さん、その会社の名前は?」

「―――…川瀬産業グループ。」










川瀬…?




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