√番外編作品集
「ねぇ、海には雪って積らないよね」

「流動するものには積もったりしないよ」

「でもさ、海って表面だけが波打ってて、底の、底の方~の深海とかは動いてないんじゃない? そこには雪が積っていきそう」

「深海にだって、対流がある。そもそも雪は水の結晶なんだから、結晶構造を保っていられずに海に溶けるよ」

海岸線に向かって波打つだけに見える海は

その海中深くで、大きな大きな流れを持ってる。

「こうやって見えてる海と、底の方では違った流れがあるんだよね」


彼が小さく頷いた。


「でもそれは、ここからじゃ見えない」


彼の言葉に、涙が落ちそうになった。

そうだ、見えない。



見えないの



あなたの、心のその奥深くが。


見えないからこそ

吸い込まれそうになる。


見えないからこそ、見たくなる。

自分だけが、手に入れたくなる。



でも荒波の心を抑えて、平静を保って彼と別れたい。

この先も、彼の傍にいるために

そう

別れたからって、もう二度と会えなくなるわけじゃないんだから。

そうしたら

明日も彼は、"イトコの敦子"として、接してくれる。

私も彼を、"大好き"なイトコとしていつも通りに接することができる。
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