√番外編作品集
「泣くなよ」
言われて
堪えていた涙が落ちてしまったことに気づいた。
「潤を、変えられなかった自分が悔しいの」
「…………」
「別に、潤と別れるのがイヤとかで、駄々こねてるんじゃない」
手袋のすそで涙を拭く。
今日はいつどこで泣きだすか分からないから、マスカラをつけなかった。
彼の前では泣かないと決めていたから、減点だけど。
私は潤が好き。
かつては10割が嫌いで構成されていた結晶は
今や9割が好きで構成されてると言ってもいい。
頭がいいところ、だけど不器用なところ
子供みたいにオレンジジュースが好きなところ
面倒くさがりやなところ
意外に絵がうまいところ
そして、なにより、優しいところ
だけど1割
どうしても私にとって譲れないその1割が
彼と私をこういった終局へ導いた。
彼もまた、その1割を妥協することはなかった。
「だだこねてなんて、いないんだからね」
だからお互いで許せぬ部分が同じ。
「……そ」
彼はあっさりと言って海の方を見た。
不思議
頭の上には青空が広がっているのに、傘の外では雪が積っていく。