√番外編作品集
「でも潤は、私が変えたかった!」
思わず叫んで、それから口を思い切り閉じた。
エゴだ。
好きだからって、そんなこと押し付けても愛にはならないのに
100%理想どおりを期待したわけじゃない
だけど
『好きか、嫌いかで言ったら、好き』
たった2つの答え、簡素な式の答え。
波打ち際で、誰にでも見てとれる答え
私は彼の海の底、知れぬ対流に触れたかった。
彼の簡素な『好きの向こう側』にあるものを、私は欲しかった。
私は『潤の特別』になりたかった。
でも彼は、それを与えることはできないと言った。
「好き以上のものを、俺に求めるのは違う。敦子がそれを求める相手は俺じゃないよ」
じゃあなんで付き合ってくれたんだろうか
本当は、それ以上の関係になれると、彼自身もココロのどこかで期待してくれたからなんだろうか
そう思ったけど
それもまた、私が彼を一番スキな理由の「優しさ」からなんだろうと思う。
それでも、特別な優しさだったと思う。
彼は満遍なく優しさを撒いたりしないから
私が欲しかった「特別」に近いんだと思う。
だけど
欲しかった特別じゃない。
私だけが好きだとそう言って欲しい
私を一番に優先して、私が一番だってそう言って欲しい
だけどそれは違う
彼はそう言う
「俺は、自分の考えを譲ってまで、誰かを大切にとかできない」
──……彼曰く、価値観の違い。
うつむいていた私の瞳から、また涙が一粒落ちた。
私の特別がまた1つ、手からすべって落ちていく。