√番外編作品集
「……」


涙をがんばって抑えこむ。



唯一の肉親だったパパを失っていた私の心理状態はまさに崖っぷちで

今まさに、背を押され落ちていく、そんな状態だった。

「1人になるの、怖い」

パパが死んで日も浅い

だから余計に、不安が波になって押し寄せてくる。

「お母さんもいるけど、でも頼るのどっかおかしいって自分の中で何か否定してくるの。お母さんはママじゃない。ワガママいっぱい言って嫌われたくない。1人嫌なのに。矛盾してるの」

頼れない自分がイヤ。

1人になるのが怖い自分がイヤ。

「1人じゃない。もっと頼っていいと思うけど。負担だなんて思ってないし、頼って欲しいと思ってるよ、芙美……叔母さん」

海の方を見て、彼が言う。

煙る白い吐息が砂浜に溶ける。

「おじさんが死んで悲しいのは、敦子だけじゃないし」

悲しいのは1人だけじゃない

分かってる。


パパを愛していたお母さんだって

私と同じくらい悲しいはずだ。


「おじさんの死を悲しんだ人は、お前のことを好きな人ばかりだよ」


お前は色んな人に愛されてるって

だから頼っていいんだって

彼はそう言いたいんだろう。

悲しみがあるのは、愛されていて

愛していたからだって知ってる。


「敦子が、芙美叔母さん支えてあげるべきだろ」

じゃあ 私は?

私はだれが支えてくれるの?

私の視線の訴えを、彼はすくいとった。


「付き合ってなきゃ、俺は敦子を守れないわけ?」


「……」


「面倒だよ、"付き合う"って。相手を拘束するって独占欲とか、そういうものに縛られるのも」

顔を上げて、彼の横顔を見た。

冷えて張り詰めた頬が、少し赤い。

瞳は真っ黒で大きくて

私の知らない、海の底みたいだった。

「そういう思いのせいで、守りたいもの、見つけたいものが見つからなかったりするんだよ」

一拍置いて、彼は続けた。

「敦子は付き合うってこと、すごく重い捉え方する。俺も同じかもな、でもベクトルが違うよな」

気がつくと、黒い傘は雪が積って薄くグレイになっていた。
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