√番外編作品集
寒さがさらに厳しくなる頃


県下中学美術展に、彼の作品が展示された。


私はお母さんを誘って、その展示を見に行った。

彼より上手い絵を描く人はものすごくたくさんいた。

彼は絵が上手いと思ってたけど、他の作品を見ると技術的に埋没して見えた。


でも

彼が描いた絵は私とお母さんにとっては、かけがえのない

なによりも素晴らしい絵だった。


タイトルは「飯島篤志」


パパの絵だった。

パパの葬儀の後、泣き顔なんて見せなかったお母さんは、展示されていた潤の絵を見て泣いた。

敦子が一番悲しくて辛いのに、私が泣いたらどうしようもないと思ったのにごめんね。

人の目も気にせずに、絵の前で泣いて、お母さんは何度も私に詫びてきた。

我慢をして、気持ちを抑えてもいつかそうやって溢れてしまう。

彼への気持ちが変わらない私も、いつかお母さんのように泣くかもしれない。

でもその涙は、海の底にいつか届くと信じていた。

付き合うという『制約』から解き放たれた今。

彼と私を繋ぐ『愛情の絆』なんてものはないけど

いつかちゃんと彼の気持ちに近づくことはできるとそう信じたかった。


何を考えながら潤がこの絵を書いていたかは分からなかったけど

今でもこの絵は、ダイニングに飾ってある。
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