√番外編作品集
そのままカウンターの方の河田の方まで行くと、2人は何か話しはじめる。

オープンテラスの向こうへ視線を投げると

坂を行き来する人の波にしばらく視線を奪われる。


敦子が帰ってこないので、オレンジジュースを口にして、カバンの中の本を出して読み始めた。


暫くして顔を上げると外は雨に濡れた夕焼けに染まって、せわしなく流れる人の波やビルが、ネオンで輝いていた。


スタッフが静かにブラインドを降ろしていくと、照明の色も白から淡いオレンジに変わった。

カフェ・マルコは夜になると照明が落ちて、高い天井がプラネタリウムになり星が投影される。

……正直眠くなる状況になるわけだ。

高い天井へ視線を投げてから本を閉じる。


いつまでも帰ってこない敦子へと視線を投げると

代わりに山岡が視界に飛び込んできた。

雨の匂いを纏った柑橘系の香水の香りがうっすらと流れてくる。

「ごめんなさい、遅れましたっ」

急いで走ってきたのか、髪は少し濡れて、いつも学校でしているパールの並んだヘアピンとは違った、花のついたヘアピンが斜めになっていた。

「俺は別にいいんだけど、今度は敦子がどっか行ったよ」

「あ、敦子ってばね、今日ヒドイ……」

「待って」

俺は何か訴えようとする山岡を手で制止してから、横になって今にも床に落ちそうなヘアピンを髪をひっぱらないように開いて引き抜いた。

千鳥のコートに掛かった水滴を軽く逆の手で払ってやってから、ヘアピンを手渡す。

「待ってて、敦子呼んでくる」

席を立って山岡を奥のソファへ通すと、カウンターに敦子の影を見つけた。

山岡が着たことに気づいていないんだろう。


「それ飲んでいいよ」

俺は席を離れて敦子の所へ歩いて行った。
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