√番外編作品集
……──山岡の笑顔に、朝からプレゼントを買いに走らされた苦労が報われた気がする。

敦子が唄を歌い始めると、河田も調子に乗って歌い出した。

山岡の吐息が18本のローソクの火を消すと、拍手が店中に鳴り響く。

「千恵、おめでと~!」

「山岡ちゃん、おめでと~」

「おめでと」

プレゼントをテーブルに置くと、敦子はちゃんと手渡しして! と厳しく俺にツッコミを入れてきた。

しょうがないので拾い直して手渡しすると、山岡は少し照れた仕草で微笑んだ。

「開けていい?」

「むしろ見て!」

敦子は身を乗り出した。

山岡が包装紙を解く仕草が、小動物のようで見ていて可愛らしい。

「ヘアピンだ。これ、前みんなで見に行ったときのだよね」

袋の中にはヘアピンがいくつかアソートになっていた。

山岡の好きなパールのヘアピン、魚のヘアピン、花があしらわれたヘアピン

よく分らないが半分は敦子がセレクトして、俺がなんとなく視線を取られた魚のヘアピンは……

「なんかねーその魚のやつ、雑誌で紹介されたらしくて品切れになっちゃってて、注文してさ。今日届くっていうから、潤を朝から走らせたんだよー」

敦子が丁寧に説明してくれた。

その通りだった。

山岡の目が、暗闇の中でキラキラしている。

本当に嬉しいときとか、光源がないのに人の目って輝くもんなんだな。

「走る…? 潤が?」

「別に焦らなくても、こっちは注文してるんだし逃げないっていったのに」

俺の合理的な言葉に、気持ちの問題だって、と河田がつっこんできた。


その後はケーキを切り分けて、食事をして

河田のエイプリルフールの遍歴で盛り上がった。

ウソがつける日は、とことんついておけ。

それが河田家の教訓らしい。

山岡は始終ニコニコしていて、とても上機嫌だった。

帰るころにはもう時計は10時を過ぎていて

山岡を送るように敦子に背中を押されて店を出た。
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