√番外編作品集
「明日から高校3年生、クラス変わらないけど、また1年よろしくね」

それが言いたかった、とばかりに山岡は俺を見て言った。

また1年、があと1年しかないけど、とも聞こえた。

「今年は受験だからな、大変だけど」

雨が降っているので、少しぎこちない動作をしながら

カバンの中から包装された本を出して山岡へ差し出した。

「これ、俺から」

「え?」

「クリスチャン・リース・ラッセンの写真集。山岡の好きな鯨とかイルカとか」

山岡は焦って俺の差し出した本を受け取る。

「たまには参考書以外のものも、見た方がいいだろ?」

手からするりと魚のヘアピンが滑り落ちるのが見えて、落ちる前に掴む。

「と、おい、落ち……」

顔を上げてピンを渡そうとすると、山岡の目尻に涙が溜まっていた。

「なんで泣くんだよ」

「う、嬉しくて……びっくりして、個別でプレゼントもらえるなんて思わなくて」

向いの横断歩道で、青いランプが点滅している。

「しかも、じゅ、潤から」

山岡は俯いて前髪で涙に濡れた目を隠した。

「うれし泣き? でもこんなとこで泣かれると俺が困るから」

傘を肩にかけて、拾い上げたヘアピンを開いて山岡の前髪に触れる。

細い絹のような髪質の山岡の髪を一束すくってヘアピンを通すと

泣き顔の山岡の顔が見えた。

「ウソでもいいから、とりあえず笑っといてくれると助かるよ、エイプリルフールだろ?」

赤信号から青に変わったのを見て手を引いた。

ぎゅ、と山岡が手を握りかえしてくる。
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