√番外編作品集
クラス分けの面接の際に彼が教師達に言った言葉はとてもシンプルだった。


「できるだけ沢山の出来事を数式で表してみたい」


他にも色々と聞かれたが、そんなものは直接聞かなくても紙に書いて渡せば伝わることじゃないのかと思ったので、まともに回答をしなかった。

悪友から「落ちたぞ、それ、印象悪くて落ちた」

と散々弄られたのだが

潤は無事に4月、2年に進学し、特進2Bになった。


だが、それからの彼が、授業に対して意欲的に望んだかというと話は違った。


あくまで教科書や参考書さえ読めば理解できるものばかりで

彼にとって数学の時間は

居眠りの時間へ変わってしまった。


教師への嫌味で寝ようとしているのではなく

単純に違うことを考えていて、収集がつかなくなって眠くなるという寸法だった。

たとえば、数学上解説困難とされた四色定理ポアンカレ予想であるとか

数学上の未解決問題とされた難問について考えていた。

誰も潤が頭のなかで

そんな現象と数式で立ち向かおうとしているとは思っていないだろうし

彼自身、人に言うこともなかった。

答えが出ていないのに言う必要はない、という理屈だった。

トン、とマークシートを塗りつぶす鉛筆を置いて問題用紙を閉じた。

1分だけ目を閉じて、試験が始まる前まで気持ちを巻き戻す。



新鮮な気持ちへ立ち戻り

もう一度問題を見直そうとした。
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