√番外編作品集
験が終わると、七海は重い息を吐いた。

回収された問題用紙と回答用紙を遠くに見守りながら、眉間の辺りが重くなる感覚に襲われた。

最後の計算、間に合わなかった……


どうして時間制限なんてあるんだろう

もう少しで解けたのにのんびりと鉛筆をケースに修めていく。

人間には、制限が多すぎる、と心のどこかで感じていた。

空も海も果てしなく広くどこまでも制限なく続くのに

なぜ人は、時間にこんなにも束縛されなくてはならないのか

数学の問題1つでそこまで考えなくてもいいとは思ったが、眉の間に皺を作って項垂れた。

ふぅ

でも模擬は終わった、責任は果たしたのだ。

七海は気持ちを切り替えて顔を上げた。

試験が終わったばかりの講義室は人が溢れていて、目眩すら覚えた。

傘も持っていないし、人が減ってから吉沢アヤトと合流しようと思い、席についたまま外の景色に視線を投げた。



同刻、講義室から人が捌けてから出ようと

席についたままだった潤は、外の雨模様を見下ろした。



雨はひどくなっている。

傘を持ってきておいてよかった。

潤はそんなことを考えながら、ゆっくりと席を立った。

雨が降っているせいか、外はどんよりと色を落としている。

不快と感じないのは、春が梅雨に向けて忘れていった冷たい風があるおかげだ。

花冷えはもう時期に合わない、この寒さは、桜の花の忘れ物だと、ジャケットを羽織る。

革靴に履き替えてスリッパを所定の場所へ戻した。
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