√番外編作品集
「わ、君、可愛いね~ハーフ? その制服、立幸館だよね?」

「どうしたの? 友達待ってるの? あ、傘?」

ルーズな制服の着こなしをした男子学生2人がまっすぐ向かってくる。

制服は見たことがないものだったので、おそらく学区の違う学校だろう。

言葉の端にじっとりとした音程を感じて、七海は急いで足元の傘を手に取って開いた。

「俺らも傘忘れてさぁ~一緒に……」

2人の言葉が終わる前に、雨の中へ飛び出した。

紫陽花もまだ色付かない会場の花壇の横を全力疾走する。

水たまりに飛び込んだブーツが水を弾く。

パシャン、と跳ねる水音が、絶対音感を持っていた七海の頭の中で音符に変わった。

タラン、タラン、と奏でるように傘に弾かれる滴はスタッカートして消えていく。



必死になって走ると、公道に出て人が増えていた。

やっとの思いで息を飲み込んで、傘を持つ手を変えた。


結局傘を取ってきてしまった。


七海は誰のものか分らない傘の柄を見つめた。

駅までとぼとぼと歩いていく。


どこかでこの傘を渡してくれた人に会えれば、と思ったのだが、顔も見ていない。

声は覚えていたが、これだけの雨音と雑音の中から声を拾うことなどできなかった。

……二条西の制服だった。

それを思い出して少しほっとした。
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