√番外編作品集
せっかく彼と繋がった接点。

大切にしたかったのに

屋上で言えなかった。


好きな人を聞いて、いると即答されただけなのに

四方八方から刺されたみたいに、辛かった。


だからもう何も言えなくて、聞きたくなくて

話を変えてしまおうと、死の待ち受けのことを振った。

でも結局、それが何?という顔をされてしまって、逃げてしまった。


助けてなんて言えなくて、好きですなんてもっと言えなくて

何かから逃げるようにして走っていた。


サイレンを鳴らして走っていく救急車の音が聞えなくて

雨音も聞えなくて

ただ、イヤホンをしているみたいに、歌声が聞えた。

千恵に泣きながら電話をしたら、ちゃんと伝えた方が後悔しないと

そう言ってくれた。

拒絶されるのが分っていたけど、私はずっと掛けられなかった黒沢君の番号にコールした。


声が聞きたかった。

聞えてくる歌声なんかじゃなくて

黒沢君の声が聞きたかった。
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