√番外編作品集
約束の待ち合わせに指定していた喫茶店でコーヒーを1杯飲み終えて、俊彦は腕時計を確認する。

「遅いですね、黒沢」

時計は18時20分を指していて外は夏らしいむっとした暑さだった。

彼はいつも約束の数分前には姿を現すのに、どうしたんだろう……。

不安そうな顔がそう物語っているのを見て、隣の男が呟いた。

「そうだね、彼は時間には正確なのにね」

薄いグレーのグラデーションのかかったサングラスの奥には、まるでビー玉のような色素の薄い瞳が輝いている。

流暢な日本語さえなければ、外人そのものだった。

「霧島さんだってちゃんとここまで戻ってこれたのに、黒沢が迷うわけないし……」

「こらこら堀口くん。僕だって一度行った場所くらいは覚えられるよ」

俊彦の言葉に霧島が苦笑してカップをソーサーへ置いた。

「ちょっと心配だね……」

霧島も時計を見ると

「30分まで待ってそれから電話してみよう」

と言って瞳を閉じた。

待つと言いながら、2人ともひどく嫌な予感がしていた。

喫茶店の外は明るさを孕みつつも夏独特の闇のカーテンが広がっていく。

腕時計が秒を刻むたびに不安感が広がっていく。

「彼はさ」

霧島は誰に言うまでもなく、独り言のように呟いてコーヒーを口にする。

「あの人を寄せ付けない感じが、七海に似てる」
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