√番外編作品集
久しぶりの夕立だと思いながら霧島は俊彦を見た。

「そう……あぁ、頼めるか? 勝手に帰ってるってことはないとは思うんだが……」

俊彦は潤の行方を淡々と聞いていた。

その会話を聞きながら目を細めると霧島はこの先に起こりうるケースを分析しはじめた。

潤が単純に遅刻しているケース

迷ってここに来れなくなっているケース

そして最悪のケースは……


「霧島さん」

霧島は名前を呼ばれ現実へ帰ってきた。

「あぁ? 山岡さんは行方知ってたかな?」

「いえ知らない様子でした。それで黒沢の家に寄ってから、これからここに来ると」

「そうだね……いなかったら探すことになるね」

眉間に皺を寄せて外の雨模様を睨む。

まるで蜘蛛の子を散らすように大通りには人の姿がなくなった。

夏の雨は降り注いでくる雫が、涙のようだ。

冷たさは無く人肌を滑ってきたかのように温い。

だから夏の雨は誰かが泣いているような気がして、憂鬱になった。

喫茶店の前で雨宿りしながら、暗くなっていく北宮の町並みを見つめる。

「タバコいいかな?」

「どうぞ」

霧島は風下へ移動すると、静かにタバコに火を点けた。

湿気を吸っていたのか、タバコが赤い火を灯すのに時間がかかった。

「俺、妹がいるんですけど」

無言の間が気まずくなったのか、俊彦は肩にかけていたカバンを降ろし黒いローファーを履いた足を軽く組んだ。

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