√番外編作品集
プールが始まると日は傾いているはずなのにめちゃ炎天下だった。


水面から顔を出すのが億劫で

ずっと水中に潜っていたいくらいだ。


屋上で居眠りこいて、適度に蒸発気味だった体にはちょうどいいくらいの水分で、体中が喜んだ。


「別れたんだって?」


「あ?」



プールサイドでホースから水を出しながら、黒沢が俺に話を振った。


「"南都美"」


「興味ないくせに情報早いな。別に別れてないぞ」

ホースは口を押さえつけられて、飛び散る水が遠くに伸びていく。

「敦子がキれてた。今日は逃げろよ。飛びついたら逆に遠心力利用されて殺されるぞ」

視線を合わせなかったが、その言葉に顔を上げる。

顔を上げると、プールの向こうの体育館でバレーをしている女子達の声と影が見えた。

「なぁ、黒沢」

「ん?」

「お前さ、人生妥協したい?」

「なんだよ、その"南都美"ってのとケンカしたのがそんなに響いたのか?」

黒沢もやっと振り返って、俺と視線を合わせた。

体育の教師の笛の音で、プールでは50mの測定が始まった。

「違うよ。そーじゃなくて。どうせ生まれてきたなら、達成感欲しいだろ?」

「まぁ、モノによるけど。別に女で達成感は欲しくない」

そこまで読まれていたのか、肩に掛かったタオルをかけ直して俺は続けた。

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