√番外編作品集
「敦ちゃん聞いたら、むくれそうなコト言うなーお前」

「そうだな。結果として人は1人で死ぬけど、過程で誰かと接点を持ち続けなきゃいけないわけだし。
答は1つだけど、途中経過は大切にした方がいいに決まってる」

「だろ? それでどうせなら数ある仮説の中から、一番スマートで分かりやすいものをチョイスしたいよな」

「至極、当然なことだな」

黒沢はホースをぽい、と投げて蛇口を閉めてこちらへ歩いてきた。

「つまり俺はそれを妥協したくないってことなんだよ」

「心構えは大したもんだけど、それで恨み買ってると足元すくわれるぞ」

「次!河田!岸三田、菊池、黒沢、高陸」

プールサイドでスタンバイしていた俺たちが立ち上がる。



俺は思う。


50mを泳ぎ切る

その時間を測定して、他の奴らと比較して

俺たちは一体何を得るんだろう。

人と比べることは

自分の立ち位置を絶対的に把握するために重要なことかもしれない。

xとyの関数グラフで言えば、xの座標を知るための手法だと思う。


だけど人間は、黒沢が言ったみたいに

最後は1人で死ぬわけで

「自分自身」の相対的な位置を掴まなくては

つまるところ、残りのyの座標がつかめなくては

まったく意味がないのだ、と思う。
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