√番外編作品集
「敦子」

ヒートアップする敦っちゃんを、前の席の黒沢が止める。

敦っちゃんは、俺の言うことはスルーだけど、黒沢の言うことは耳を傾けるからこれまた憎らしい。

「そういう関係ないことは、放課後か廊下でやれ。ウチのクラスは次小テストだ」

「関係ないって……友達が泣いてるのに」

敦っちゃんは口をドナルドダックみたくして拗ねると俺を睨む。

いやいや、睨むのは黒沢にしてくれ。

「河田君。放課後、逃げないでよね」

敦ちゃんは俺の処刑を言い渡すと、ひらりと背を向けて教室から出て行った。

俺と黒沢は視線だけで見送ったが、そのうち黒沢はごく当たり前の日常といいたげにシャーペンの背をノックして、教科書と対話しはじめた。

俺だけが遠く、敦っちゃんの去っていった廊下を見ていた。

そーか そうだなぁ

次が小テストだからとか、おかまいなしに南都美に会いにいけるなら、南都美は俺の運命の女神なのかもしれないな。

追いかける気にならないってことは、南都美は、やっぱり女神とは違うのかな。

「河田」

「あ? 何?」

黒沢が肩越しに俺を見ていた。

「次サボるなら、俺が適当なこと言っておくけど?」

黒沢の言葉に、一拍おく。


何か考えようとしたけど、なにも思いつかなかった。


俺は無表情で首を横に振って、やっと席についた。


「いいよ、別に」


俺って、たしかに最悪なのかもな。

なんでこう、急に淡泊になるんだろう。


ごめんな、南都美。

お前にとっては俺が、運命の人なのかもしれないのに。
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