√番外編作品集
「黒沢」

肘でつつくと、黒沢はイヤホンを外して俺を見てそれから俺の視線をたどった。

「変な組合わせだな。お前撃退の対策してるのかもな」

「そういう凹むこと言うなよ」

「丁度いいじゃないか。謝ってこいよ」

俺は先に帰る

と無情なことを言う黒沢のカバンをひっつかんで、ファーストフード店へ向かう。

「おい! 何すんだよ」

「連れション!ってことで! 一緒行こうぜ」

ふざけんな、と黒沢の罵声が聞こえたが俺は半ば無視して店内に飛び込んだ。

遅れて黒沢が入ってくると、向こうもこちらに気が付いた。

「敦子、私帰る」

南都美はあからさまに不機嫌な様子で席を立ってこちらへ向かってくる。

同じ室内で空気吸いたくないとか言いそうだ。

「あっ、南都美ー」

敦ちゃんが急いで席を立とうとすると、それを山岡ちゃんが止めた。

「ちょっとどいてよ、そこのひと、邪魔」

目の前まで来た南都美が、入口に立ちはだかっていた俺を思い切り睨む。

じっと南都美を見るが、何の感情も浮かばない。

俺、今焦ってるのかな

それでこんなに頭が真っ白なのか?

それとも南都美のことはもう、どうでもよかったりしてるのか?

だからこんなに落ち着いてられんのか?

「何ぼんやりしてんのよ、邪魔だって言ったでしょ康平!」

あぁ、自分がよくわかんねぇ

「南都美」

「なによ、最低男」

振り上げられた手を避けて、また南都美を見る。
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