√番外編作品集
「南都美」

ほら席に、と催促すると南都美は俺の腕を掴んで声を抑えたまま続けた。

「ねぇ、答えてよ。わ、私は康平のこと好きだよ。だからあんなに怒るんだよ、分かってくれてんの?」

必死な様子の南都美を見下ろして、俺は波風ひとつ立たない水面のように

やけに落ち着いた心持ちで質問に質問を返した。

「ねぇ、じゃあ……南都美は俺の女神になってくれる?」


は?


向こう側で敦っちゃんが眉をしかめたのが見えた。


「南都美は俺と結婚してもいいって思う?」

俺ってなんでこうなんだろう。

与えられるなら、与え返す

与えられないのなら、いらない

どうしてこんなこと考えるんだろう。

「結婚? ちょ……何考えてんの?」

「……俺のことスキなら、結婚してもいいかも?って思うよね」

「気が早いよ!」

「うん、分かってるんだけど、気持ちの話」

「……わかんないよ。結婚なんて、わかんない」

「うん、だよね。ごめんね急に」

真っ白だった頭が、急に冷えて周りの景色がうつってくる。

黒沢の言葉が、電光掲示板のように流れていく。

今、俺、思い切り冷めてきてる。

先がないなら、見込みがないならダメじゃん、って思ってる。

今すぐ与えてもらえないのなら、嫌だって思ってる。

自分が欲しい答えが手に入らないと、嫌だ。
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