君にあげられるモノ
 彼は壁際の機関電信機まで歩いていくと、電信に向かって「はいはい今出るからちょっと静かにしてくれよ」とぼやきながら受話器をとった。

 小声の会話は断片しか聞こえない。聞き耳を立てるのはいい趣味とは言えないだろうけど、やはり気になるもので。

「あぁ、――大丈夫っすよ。――の事は――が一番――えぇ。心配ないっすよ――じゃぁ来週、はい――」

 さっぱりわからない。

 私に対するよりも少し丁寧な言葉遣いなのは、彼よりも目上の人が相手だから?

 結局彼は、電話の相手が誰かも教えてくれなかった。

 それが当然なんだろうけども。
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