狂者の正しい愛し方
兆
***
「……あ、ごめんなさい佐薙さん。
ちょっと、トイレ行ってきていいですか?」
周りに聞こえるのが恥ずかしいのか、晴姫は声を抑えて俺に耳打ちしてくる。
どうしてこうも可愛いんだろう。俺の晴姫は。
此処は、ファーストフード店を出て、少し歩いた所にある広場。
広場にはアイスのワゴンも見えるし、公衆トイレもきちんと備わっている。
たかが数分と言えど、晴姫と別れるのは嫌だ。
だが、俺も大人なのだから、そのくらいは我慢しないといけない。
晴姫にも、一度怒られたことがある。
「ああ、此処で待ってる。」
そう言ってやれば、安心した頬笑みを浮かべる晴姫。
抱き締めたい衝動を必死で抑え、俺も笑顔を作る。
「じゃあ、すぐ戻ってきますから!」
「急がなくて大丈夫だぞ。」
嘘だ。本当は急いでほしい。
俺の傍らから晴姫が消えた途端、こんなに胸の中がグチャグチャとして気分が悪いのだから。