きみの視る幻想(ゆめ)
雨?

思ったが、かまわず走る。

ともかくもう俺にはあとがないんだ。

ひたすら心の中であいつの名を呼ぶ。

足元がやたらにくずついていた。

人工的に造られているにしては、やけに本物じみた山の中腹。

たいして高くも大きくもないのはやはり人工だからだろう。

今の世の中、本物なんてありはしない。なにもかもが偽物だ。

天気予報は百%の確率で。

今日はよりにもよって雨の日だった。

足がぬかるみにはまりこみ、俺は溜まった水へと顔を突っ込むはめになる。

靴も服もすっかり泥にまみれていた。

けれど、俺は立ち上がり走る。

ぜいぜいと息はきれ、口から涎が垂れそうになっても気にしてはいられない。

そうして走り続け、足の感覚がなくなりかけた頃、俺は目指す場所にたどりついた。

山のほとんど頂上に近い場所だ。
 


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