きみの視る幻想(ゆめ)
【02】
「思い出なんて
一枚しかねぇ紙幣と同じさ。
希少価値はあっても、
使用価値なんざねぇ」
大学生が住むために造られたワンルームマンションの一室である。
隣も隣も上も下も、同じ造りの部屋が並んでいる
八階建ての建物の二階にある部屋だった。
六畳の台所と八畳の畳敷きの部屋、それに風呂場とトイレがある。
完全に満足できるものでもないが、文句を言うほどのこともない。
実際、部屋の主であるアオも適度な快適さを感じていた。
希望する大学に入学してから三ヶ月。
アオ自身は一人の生活に慣れてきたが、
まだ部屋の内装品は真新しさが抜けてはいない。
ビデオと一体型の珍しくもないテレビは、
あまりテレビを見る癖のないアオにとって
部屋を狭くする邪魔者と成り果てていた。
売り飛ばしてやろうと何度も思ったが、
せっかく親が持たせてくれたものだと思うと、
今はまだ見切りがつけられなかった。