きみの視る幻想(ゆめ)
CDコンポは、それまで使ってきたものを

家から持ってきたもので、

こちらはテレビとは違い、活躍している。

コンポの隣に置いてあるラックにはCDが規則正しく並んでいた。

CDの数は、本棚代わりに買ったカラーボックスに

並んでいる本より多いことは間違いない。

カラーボックスには大学の講義で使う教科書しか入っていない。

あとは本とは呼べない雑誌のたぐいが乱雑に突っ込まれているだけである。

見本とまではいかないにしてもアオはごく一般的な大学生だった。


「そんなこと言ったって
 記憶にあるものは
どうしようもないだろう?」


部屋には静かな音楽が流れている。

一人ではけして聴くことのないピアノ曲だ。

今日、部屋にいるもう一人のために曲名も知らないCDを何枚か買った。

そのうちの一枚だった。

一年を通して使うことのできるこたつ兼テーブルを挟み、

自分の前に座っている友人へ、アオは苦笑を浮かべてみせる。

その程度で相手が妥協してくれるとは、もちろん思ってもいなかった。
 


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