きみの視る幻想(ゆめ)
明日が途切れるなんて誰も思いもしなかった。

今からすれば理想郷だな。

戦争もなく、小さな犯罪ですら少なかった。

今より、という意味じゃない。歴史上をさがしても、

あれほど安定していた時代はなかった、という意味だ。

なにがあれを造っていたのかはわからない。

羊の飼い主が誰だったのかも知らない。

ただ「みんな」という仲間意識が強烈に強かったことだけは確かだ。

それは人一人を簡単に抹殺してしまう凶悪さを備えた仲間意識だった。

異端者は排除してもかまわない。

誰かが言葉にして言ったわけでもないのに、みんなの心にそれはあった。

無意識のレベルで、誰もが異端者を排除したがっていたのだ。

矯正され、異端者でなくなる奴もいた。

仲間意識の強い世の中で、一人取り残されるのはつらい。

一人で立ち続けられなくなってもしかたがない。

自分を折り曲げ、仲間意識の毛布を手に入れたほうが生き易い。

人という字は支え合い。

いつだか習った漢字の起源。

あの頃「みんな」は「人は一人では生きられない」を信じ

実行していたのかもしれない。
 
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