きみの視る幻想(ゆめ)
どうすれば殺せるのかもわからないし、人を殺すのはなんだか恐い。

人を殺すというのは、そいつの命を奪い取るということだ。

それまでの毎日にあったはずの、これからの毎日にもあったはずの、

そいつの持つすべての影響力が消えてなくなるということだ。

生き残るためにはしかたがないとわかっていてすら、俺は恐がっている。

天国も地獄も信じていないのにな。

とにかく、だ。

そんな情けない俺に、追いかけてくるあいつと対決する根性などはない。

逃げるが勝ちとふんでいる。

荷物をまとめ、鉢植えを小脇にかかえた。

宿代を払うカウンターまで行くと、

宿主の男が俺に愛想笑いを浮かべてみせた。


「もうお出かけで?」

「悪いけど長居もして
 いられないんでね」


ぺこりと頭を下げ、俺は宿代を払わず、外に出る。

今じゃ金より重要なものがたくさんあり、

俺のかついでいる灰色のずた袋の中身もその一つだ。

昨日の夜、宿代以上に働いてくれた。
 
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